人類がじぶんの身体的変化や、自然界の流動性にメモリをつけたものを「時間」と呼ぶ。
現在われわれは太陰暦と呼ばれる月の満ち欠けを利用した時間軸に社会をおいているが、便利なようで不便であり、不便だからといって捨て置くわけにもいかないのが社会的動物たる人類のかなしい性である。
その月の満ち欠けとともにやってくるのは暦の変化、そしておっさんの散髪である。
会社という組織に身をおく社会人男性、つまり月給でおまんまにありついている通称サラリーマンという人種はどれくらいの頻度で散髪をすればよいのでしょう。
ニッポンの社会という土台で信用を得るには整った短髪でなければなりません。
その髪がひとたび長くなれば信用はだだすべりで落ち、社内外での信頼、成績、実績は下降。むしろその土俵にさえあがらせてもらえないという由々しき自体に陥るのです。
よっておっさんは髪を切ります、きっかりと。
その様はまさにタイマー式。
チックタックと髪が伸び、その指針が12時をさしたとき、チーンと音を立てて理容室に赴くのです。
今日もひとり、おっさんが散髪を施してきました。
彼は先月にも散髪を施工しています。
だいぶ見慣れてきたな、というタイミングで切ります。
まだ伸び切っていないのに、です。
こざっぱりした印象を常に身に着けています。
社会人の最強のアイテムです。尊敬すべき鑑です。
理容室もそのタームを把握しています。
月の満ち欠けで誰が来るのかを判断します。
今日は満月だから井上さんと吉田さん近藤さんは来るわね、なんつって顧客を把握し、流れるようにひとりひとり顧客を捌いていきます。
その予定にあわせ一日の労力を配分します。これがプロです。
なので新しい理容室、床屋に行くのにはとまどいが生じます。
ラーメン次郎における、いわゆる「ロット乱し」を敢行してしまうワケですから。
乱されたロット内でも顧客は待ってくれません、だって満月ですから。
突然の来客、しかしそれは新規顧客。無下にするワケにもいかず、床屋さんは乱されたロットを正そうとスピードを上げます。急いで忙しいのです。
しかしその無理は身体的に疲労をあたえます、知らず知らずのうちにダメージは蓄積します。
それは手元の狂いを生じさせ、失敗とはいかないまでも、確実に他の顧客に影響がでます。
恐らくソレが起こったのでしょう。
おっさんの髪はいつもより短く、ちょっと切りすぎ状態になっていました。
今日は下弦の月。月の満ち欠けとともにおっさんは髪を切ります。
僕もそろそろ髪を切る時節です。