まだロックが好き

まだロックが好き

おめおめと生きている日記

Wolf Aliceに感じる生まれた土地がそだてる音楽的センス 「Visions of a Life」を聴いた

 土地や気候というものは、やはりそこでうまれる音楽に影響を及ぼすのだなぁ、とおもう。アメリカ西海岸の音楽は、陽光を放つかのごとくカラッとしていて明るいし、対して東海岸のそれは、都会的でインテリジェントな知の翳りを感じることがある。

 

 もちろん日本はその小さな国土からから、ダイナミックな音楽、というよりはミニマルで真面目で、三百年の鎖国の遺伝子によるカルマか、ひねくれた音楽だったりすることが多い。テクノなんて卓上の音楽はまさに日本人の音楽だと思う。

 

 「Visions of a Life」というアルバムを聴いた。ウルフアリスというイギリスのバンドはそんなブリティッシュの土地柄を体現したようなバンドだった。曇天、雨の多い英国の朦気する白んだ空気感がある。おそらくボーカルや各楽器に帯びたざらついたノイズと、深いリバーブがそうしているのかもしれない。が、それだけではないと思うのは、このイギリスという国が成し得たロックという音楽の変化変容、その名伏しがたいノンジャンル感がウルフアリスにはあったからだ。

 

 轟音は美しい。それをさまざまなバンドがギターという楽器で表してきたが、この一曲目を彩る「Heavenward」も例に漏れず美しい。なによりも木霊するボーカルのエリー女史の愛らしい声帯の表情がそれを助長している。轟く激流に身をまかせるように流れる絹のような旋律だった。

 

 と思いきや、二曲目の「Yuk Foo」という狂気にみちた喧しさで前の曲を破壊するかのごとしだった。はっちゃくノイズたちの騒音はどこかしらパンク創世記の興起を感じた。しかし、つづく「Beautiful Unconventional」はポップソングだったし、なんといっても「Do not Delete the Kisses」という曲だとおもう。居心地の好い曲だった。

 

 ゆえに、とりとめのないバンドだ、とおもった。通底していることといえば、どことなく古めかしい荒々しいサウンドメイク、ということではないだろうか。

 

 やはり私はメロディが水際立つ曲が好きだ。どんな多様なリズムよりも、絡み合う音色を纏うハーモニーよりも、メロディというものは、どうも胸に愁訴するものがある。「Planet Hunter」という曲が好きだった。流麗なメロディと、愛らしくも鳴らされるロックンロールの混沌があいまざっていた。

 

 暗澹たる雰囲気をも醸成させることのできるバンドだった。六曲目の「Sky Musings」という曲がそれだった。デジタルの冷たさに咲く呪詛のごときボーカルは蒼白くひかる満月のような、玲瓏なつめたい美しさがある。マイナーの闇に覆いかぶさる光の長調が、ふれられるような存在感をもっている。

 

 このバンドがオルタナティブであるのは、古臭いのに真新しいところだと思う。七曲目の「Formidable Cool」もそうだった。ロールするリフレインに歪んだ無機質な音色。不安定な和音の混合があった。

 

 ボーカルのエリーロウゼルは、クランベリーズのドロレスのような透明度の高い清澄な声を放つ。九曲目の「Sadboy」は透明でやぶれそうなボーカルを、丁寧に幾重にもした美しさがある。この声には陽射しを通すような透明度がある。かとおもいきやカオスティックな破壊もある。それはヤーヤーヤーズのカレンOのような感情にゆさぶりをかけるパンキッシュな激情にも似ている。 八曲目の「Space&Time」なんて堅牢な意思があるようなパンクソングだ。そういった新時代的な混淆があった。

 

 荒々しいギターノイズが爆発するとかと思いきや、やはりボーカルは優しい静謐な音を置いてくるし、その皮膜がかった音質はイギリスのむせかえるような湿り気がある。「St. Purple&Green」という曲だった。けっして都会的ではなく、草々のはなつ醸成された青みを帯びたにおいがする。

 

 あ、やっぱロックバンドやん! と思うのは重厚な「Vision of a Life」のような曲があるからで、それは、ジャンルなに? とわれれば、なんなんだろうね。と思う。この曲の前に「After the Zero Hour」のような曲があるからこのバンドを定義できない。こういうときに「オルタナ」というジャンルはかんたんに音楽を括ることができるので、便利で、的を得ない、いうなれば懐の深い、否、節操の無いジャンル名だと思う。

 

 Wolf Aliceについて、ひとつわかりきっているのは、このバンドの精神は「つくりあげた美しさ」を破壊するパンク性ではないかな、と思う。このバンドがたんじゅんに美しいだけのバンドであれば、私はこんな日記に書くまでもなく聴き流すバンドとして認識したかもしれない。なによりも、この丁寧に組み上げたトランプタワーをみずから破壊する瞬間の無常観にとても惹かれる。

 

 霧雨に光の筋が奔っている。その雨露が肌に触れたとき、冷たさと同時に自分自身の体温を熱くかんじることがある。そんな冷涼さと熱を帯びた、なまなましい狂気が内在する、とても芸術的な美しいバンドだと思った。

Visions of a Life

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