まだロックが好き

まだロックが好き

おめおめと生きている日記

ギグバッグとチャリンコと寄り道

 高校の時分。スタジオにいくのが愉快でしょうがなかった。バンドの練習だよ。

 

 おれはそのときベースを担当していた。ギターが好き、とかいいながらバンドはじめたころは「みんながやってるギターなんてやったって意味ないじゃん」とかおもっていた。こじらせてますね。ちなみにたぶんいまでもベースのほうがとくいです。ってゆうかギターがへぼすぎなんだけど。

 

 たぶんみんな知らないジャズベースを使用していた。バッカスってのは有名だとおもうけど、さらにそのバッカスの廉価メーカーのブライアンとかいうベースだった。すごく弾きやすかった。

 

 楽器屋のサービスでつけてもらったギグバッグは袈裟懸けタイプだった。ほそいポリエステルのベルトを肩に掛け、チャリンコをうまく操作してた。交通網の発達していない静岡ではチャリンコしか移動手段がなかったんですね。

 

 シールドやらチューナーやらを合わせて総重量五キロ超のギグバッグはチャリンコの運転にひじょうに支障をきたす。あれ道交法まずいとおもう。しかもでかいから自分の肩幅よりも飛び出てしまう。だから片手運転にして、もう片方のうではベースのボディのおしりの曲線部分に添えて運転してた。ベースも大事だったし、交通の邪魔になるのがいやだった。

 

 そんな艱難辛苦、塗炭の苦しみの運転のなか、おれはそれでも寄り道をしていた。なぜか。それは「もしかしたらベースを運搬している勇姿を同窓生に発見されるかもしれない」という期待があったのである。おろか。

 

 おれはベースを運んでいるのが、ほんともう超たのしかった。ってゆうか誇らしかった。おれは部活やら生徒会やらで学校では面の割れているほうだったのだけど、バンドをやっているなんてのはみな努々おもわなかっただろう。

 

 だからそんな楽器を運搬している姿を見てほしかった。「えー、ギターやってるんだ!」「いや、これベースだよ」「へぇー、バンドやってるの?」「うん、いまからスタジオ」「そうなんだ! 意外!」「重くていやになるよ」つって。おまえwww どの口からそんなめんどくさそうな科白を吐けるんだwww うれしいくせにwww っておもいますね。

 

 もう三十を過ぎたいま。あんなに誇らしかったギグバッグの運搬はこの世でもっともめんどくさい所業と成り果ててしまった。カルマだよ。バンドマンズカルマ。満員電車じゃ邪魔になるし、居酒屋では場所とるし、酔っ払うとエフェクターケースなくすし(過去二回)、もう、ほんとめんどくさいことこのうえない。

 

 先日。高校生ぐらいの女学生がギグバッグを背負った姿を発見した。ロゴはスクワイヤー。いいね! いいね! 女学生とスクワイヤー。いいよ! 風情があるよ! いいかんじだよ! おれはディーンモリアーティみたいなきぶんになった。

 

 それと同時におれは思い出した。チャリンコでギグバッグを背負って、いろんなところに寄り道したなぁ。あの女学生もいつか「もうスタジオのレンタルでよくね?」とかおもうのだろうか。それともバンドをやっていたことは、すべてたのしかったキレイな思い出になってしまうのだろうか。

 

 数年後に「ギグバッグの運搬、めんどくさい」と思っていてほしい。そして「でも、あのころはギグバッグ背負っているのたのしかったな」なんて思い出してほしい。あのときの気持ちをたいせつにしながら「でもめんどくせぇ」とかおもってほしい。

KC エレキベース用 ギグバッグ CB-100

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