まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

VOX Pathfinderが壊れた

「恋をしちゃいました!」という曲がある。タンポポという歌手グループが歌う、甘い恋慕と、初デートにおけるときめき、胸の高鳴り、浮き浮きぐあいを、恋に狂騰する乙女の視点でえがいた超名曲である。

 

 そのなかの一節に「タレントには/似てないひとです/個性とも言えない/普通のひとなんです」というものがあるが、おれにはこの一節が「個性的とも言え/普通のひとなんです」と聴こえる。そしてこれは絶妙なリリックだな、とおもう。

 

 だれにも似ていない。なんのクセもない。ゆえにそれが個性的である。なんたるトートロジーであろうか。おれはちょっと感動した。おっさん、歌詞に感動。そして、なににも似ていないからこそ、なんのクセもないからこそオリジナリティであるなぁ、とおもうものにヴォックスという会社が発明した家庭用ミニコンボアンプ、パスファインダーというものがある。

 

VOX ヴォックス コンパクト・ギターアンプ 10W Pathfinder 10

VOX ヴォックス コンパクト・ギターアンプ 10W Pathfinder 10

 

 

 エレキギターというのはアンプとセットである。エレキギターの音はほぼアンプの音と言っても過言ではない。だが、都市部に住まう我々週末ミュージシャンにとって、高出力のスタックアンプを自家用にするのは、かなりはばかられる行為である。ゆえに、みなミニアンプを使用する。

 

 おれもずっとこのパスファインダーを使用してきた。わずか十ワットのトランジスタアンプである。ちなみにスタジオではマーシャルが扱いやすくて好きです。JCM900がラク。でもジャズコも好き。ジャズコを制するものはアンプを制する。で、パスファインダーなのだけれど、とてもクリーンがキレイなのである。

 

 ジャズコのクリーンは冷たいかんじがする。澄み切った、というよりは凛と尖った真冬の空気のような音がする。そしてまっすぐに飛び込んでくる音がする。たいしてマーシャルのクリーンはさすが真空管といったところか。弦の振動を増幅しているな。というかんじの、すこしあたたかみのある音がする。広がりがある、というか。

 

 パスファインダーはどちらにも似ていない。まさに澄み切ったクリーンである。清冽な小川のせせらぎのような、澄んだ、でもやさしげな音がする。ちなみに、おれのギターはノーマルのテレキャスターと、P90のレスポール、あとエピフォンのカジノ。だからシングルコイルしかもってねぇのだけれど。

 

 このパスファインダーにはクリッピング機能がついており、歪んだオーバードライブを放てる。だが、これをよく「使えない」とおっしゃるかたがおられる。たしかにノイジーで篭り気味の、立体感が皆無の、のっぺりとした抜けのよくないサウンドではある。でも、これも使いようによってはアリなんじゃないのかな? なーんてパスファインダーのすべてを首肯してしまいそうになるほど愛らしいルックスをしている。そう、見た目がとてもかわいいのである。

 

 よく初心者用と謳われるが、クリーン単体でならすごく使える。クラプトンだってちいせぇフェンダーチャンプとか使ってたんじゃねぇっけ? 小型アンプあなどれない。ちなみになんのシリーズかわからないのだけれど、VOXのAC30というのを使用したことが一度だけある。おなじVOXだからといってなめていたら、けっこう使いにくかった。クリーンはキレイなのだけれど、すごい分離感があったような記憶がある。真空管アンプだから個体差があるのかもだけど。ハイがつよかった。歪みも、まとまりのあるパワータイプではなく、なめらかだけど広がりのあるサウンドだった気がする。巨大かめはめ波、というより、高速連続エネルギー弾といった印象。

 

 文がながくなった。そのパスファインダーがこわれてしまった。ひさしぶりにギターでも弾こうとアンプにシールドを通したのだが、音がでなかったのである。絶望だった。しかし、これはこまったことになった。と、いつまでもうじうじ困じ果てているほどおれは弱くない。つまり新しいアンプを買おう、と思い至ったのである。

 

 そこでなにを買おうか。ちいさくても真空管があるやつがいいな、とおもった。そこで見つけたBlack Star。

 

Blackstar HT-1R Combo

Blackstar HT-1R Combo

 

 

 たしかマーシャルの開発陣が立ち上げた比較的あたらしい会社だったとおもうが、そこのHTシリーズというものがよさそうだった。一ワットの真空管アンプで、値段もけっこう安い。住宅ローンにあえぐサラリーマンにとってもありがたい金額である。

 

 しかし。とおもうのは、そのブラックスターという会社のエフェクターに真空管の搭載されたものがある、という事実である。

 

 都内のスタジオではマーシャルからケトナーまで借り放題なので問題ないのだけれど、ライブハウスではマーシャルとジャズコの二択であることがおおく、ギターが二人いたときなどマーシャルの取り合いになることがおおい。またライブハウスのマーシャルは真空管がへたっている場合がたまにあり、歪みはアンプでいっか、と安易な気持ちでいくとぜんぜん歪まなくってたいへんなことになる。そんな経験をしたことがある。

 

 だからエフェクターというのは大事なのだけれど、おれは真空管の放物線をえがくように歪んでいくかんじが好きである。その真空管サウンドを持ち運びできるのはとてもいいんじゃないか? まぁさいきんはボスからもパワースタックという優秀なエフェクターがあるが、やっぱ真空管のアナログな趣、詫び寂びは忘れちゃならねぇきがする。人として。

 

 で、そのエフェクターなのだけれど、これ。

Blackstar HT-Dual DS-2

Blackstar HT-Dual DS-2

 

 

 そんなに高くない。だから、もう一度パスファインダーを購入し、HTデュアルを買うのと、ブラックスターのアンプを一台買うのでは、そんなに金額が変わらないのである。すなわち、パスファインダーにもブラックスターにも恋をしちゃいました、つって、いま首鼠両端を持しているところ。うーん。