まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

修学旅行に苦しむ

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 衣食足りて栄辱を知る。なんていうけれど、嘘だよ、あれ。きほんてきに衣食を足りているひとは生活において辱めをうけない。まぁ栄遇なら知っておるだろう。でも恥辱は知らんのだよ、やつら。金持ちはみんな滅びればいい。

 

 でも、おれは貧乏だったからわかる。おれは庶民の味方だから。庶民のための政治をするから。みすぼらしい弁当や、いっつも同じ服ばかり着ているにんげんの忸怩たるおもいなど、銀匙をくわえて生まれてきたものにはわからんのだよ、まじで。ほんと社会主義になればいい。

 

「それビームス?」「あ、これアローズ。それステューシーじゃん。いいねー」なんて会話。はは。恐怖。じつに恐怖。おれは震えていた。というより、怯えていた。息を殺し、そこにいない存在になろうとしていた。光のない目をしていたとおもう。

 

 中学や高校の制服には、「学問のまえでは人類みな平等」という象徴がある。そこに貧富の差はない。いや、あるか。私立の学校とか。でも公立の制服にはない。それなのになぜ私服を用意せねばならぬのだ。答えは、そう。修学旅行だからである。

 

 私服には家庭が如実にあらわれる。家庭における収入があらわれる。なぜそんな高級なセレクトショップの衣類が購入できるのか。中高校生の身分で。ってゆうのは、やはり、親の経済力である。

 

 おれの家は貧乏だったから、品質の高い私服を用意することができなかった。まぁ小遣いやバイト代はすべて将来のための音楽活動に投資したので、自業自得なのだけれど。まぁなんにせよ、ブランドネームの衣類をまとった友人達とは格差が生じるのである。

 

 だが、おれはあきらめなかった。おれはいつか息子に伝えたい。にんげんあきらめたらいけない。くじけたらいけない。希望はぜったいにある、と。その一縷の希望とは、つまり「おれよりもしょぼい服を着てるヤツ」をさがすことである。

 

 そういう種族をさがせば、おれは日本人に根付いた「中流意識」をたもつことができる。ちいさなプライドかもしれない。だが大事だ。それがすべてだと言ってもいい。そうしておれは、南の一つ星…ではなく、クラス中を睥睨したのである。

 

 まずは、おなじようにバンド活動をしている井上に目を注いだ。井上はメタラーである。ゆえにきっと私服もダサい。なにより、いっつもメタルのCDばかり買っているので、被服費は捻出できないはずだ、と。そうおもっていた。

 

 井上はかっこよかった。学ランよりも似合ったスタイリッシュな格好をしていた。いつもとちがう井上をみた。ほれそうになった。おもえば、こいつは持っているものがいつも小洒落ていた。おい、メタルのダサさはどこいった。負けた。

 

 つぎに原田をながめた。原田はそこそこ勉強もできて、サッカー部で一年からレギュラーだった文武両道タイプの無敵人種だった。でもなぜか音楽の趣味があった。パンクが好きで、いろいろ知っていた。そんな原田なら、衣類に興じるいとまもないだろう。

 

 だが、原田もかっこよかった。おれはこのときほどの絶望を味わったことがない。あぁ、おれは原田に勝てるぶぶんなどないのだ。人にはもう遺伝子的に勝敗をわかつ宿命的な「なにか」があるのだ、とおもった。

 

 おれは最後の手段、アルティメットな禁じ手をつかった。斉藤くんである。斉藤くんは案の定、ダサかった。田臭ただよう芋だった。安心したが、同時に「おれも落ちるとこまで落ちたな」とおもった。

 

 学力よりも、運動能力よりも、おれは「生きる才能」というやつは、ファッションセンスに現れるとおもう。かっこいい格好をしているひとは、やっぱ生き方もかっこいい。だから、服のセンスで、中高生の「モテ、非モテ」が運命付けられるのも仕方がないとおもう。

 

 だよな。斉藤。だから、おれたちは生きる才能がないんだよ。まぁ気を落とすなって。なんて気持ちでいたが、斉藤くんは秀才で、受験を乗り切り、東大に行った。おれが抱いたちいさな優越感と同調意識は、一年後、木っ端微塵に砕け散ったのだった。そうとも知らず、おれは斉藤くんの横で陽気にバスに揺られていた。

 

 夏がくる。おれは子どもが生まれてより、夏はヴイネックの無地ティーシャツと、薄手のチノパンで、いっつもマークザッカーバーグみたいな格好をしている。上下ともにユニクロである。

 

 これでいいや、とおもっている。あのとき修学旅行で被服に苦しんだが、いまはもうそういうのはいいや、とおもっている。たしかに金はないが、無理をすれば上下ボッテガでそろえられる。しかし、なにより身の丈にあった格好というのは大事だとおもう。

 

 それでも、もし息子が修学旅行に行く、となれば、できるだけ良質な格好ができるようにしてあげたいものだなぁ、なんておもったりする。身の丈をこえた被服であっても、不憫なおもいはさせないようにしてあげたいな、といい感じの結びで終わる。

 

今週のお題「修学旅行の思い出」