まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

仮面ライダージオウと「王様」になりたい高校生

 平成三十年八月二十六日。仮面ライダービルドが終幕した。爾来、なんだか妻がしょんぼりしている。武田航平に仕事はあるのか、と毎日不安に心を砕いている。妻は航平くんにすこしの恋慕を抱いているのである。

 

 満ちれば欠けるが世の習い。しかし、子どもをもつと、毎年こうして仮面ライダーの終焉という悲しみに耐えなければならない。これは悲しみのはじまりなんだ。慣れねばならぬ、この悲しみに。だが、さよならは出会いのチャンス。そんなこんなで仮面ライダージオウが新たにはじまったのである。

 

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画像引用元:仮面ライダージオウ|テレビ朝日

 

 平成三十年九月二日。黄金の鋲をもつ禍々しい黒いライダーが登場した。破壊と殺戮を好むライダー。これが五十年後のあなた。えぇ!? ぼく悪役なの? って、そう。実は仮面ライダージオウは、魔王への階段をのぼる少年の物語なのである。

 

 少年の夢は「王様」になることだった。少年といっても高校生。おれはこれけっこうまずいとおもう。王様になりたい、という戯言がゆるされるのは、ぎりぎり小二。ほんとギリギリのところ。それを高校生にもなった常磐ソウゴはそう云って憚らぬのである。なにが彼をこんな悲しい高校生にしたのか? ワンピースを読みすぎたせいなのか。

 

 どうしても大人目線でみてしまうおれは、生瀬勝久演じる常磐ソウゴの叔父が、大学受験対策の講習申し込み用紙を準備していたシーンをみて、はたと自分自身のさもしい心に気がついた。

 

 おれは理解のある親でいようとおもう。幼少教育をほどこし、頭脳に数式や年号や化学式がつまった秀才を育てようなどとはおもわない。好きに生きるのがよい。漫画家になろうが、ミュージシャンになろうが、文売業になろうが、彼が納得できる人生を送れるように幇助するのが親の務めではないか。

 

 しかし、「さすがに王様はねぇよ」とおもっている。これはおかしい。食言しているのである。医者や弁護士になれとおもわない。体裁の良い職業につけだなんて親のエゴである。絵描きやダンサーになったっていいじゃないか。でも、王様は駄目。それってどうゆうこと? と自分に問いかけてみたくなるのである。

 

 おそらく、おれのように勘案する親というのは多いだろう。子どもに好きに生きてほしい。こんな時代だからこそ。しあわせは自分で見つけるのである。あなたはあなたのおもうように生きなさい。そういうパッションを心に携えながら、でもジオウをみたほとんどの親は「王様はねぇよ」とおもったにちがいない。

 

 とんでもない自家撞着である。ああ、にんげんとはなんて自分勝手ないきものなの。自分の理解のおよばない世界には「それはねぇよ」とおもう。否定という前提。そりゃあもちろん「わが眷属は貴族ではない」という血の因果を考慮したのかもしれない。

 

 だが、平民から天下統一をなしとげた豊臣秀吉というひとがいるだろう。忘れたのか。おれはこうして子どもの将来に限界をつくっているのである。しかも無意識に。かくなる悪意のない無意識こそが、子どもを狭量なにんげんに育ててしまうのではないか。

 

 そうだ。おれの子は豊臣秀吉だ。きっと立身出世をするにちがいない。だから「王様になりたい」とおれの子が言い出したら、そっと背中を押してあげたい。「でも身分が……士農工商が……」とか云いはじめたら「豊臣秀吉を知っているか?」と歴史絵巻を語ってあげたいものである。

 

 そんなことをおもっていると、ジオウの物語はテレビジョンのなかでタイムスリップする。ジオウは時間の物語のようで、時代のタイムスリップが可能なのである。すると行き着いた時代が、なんと、江戸時代。すさまじい皮肉であった。

 

 たしかに豊臣秀吉は天下統一を成し遂げた。しかしわずか十年ほどである。そのあとは豪族の子であった徳川家康が征夷大将軍となり、みなさんご存知の江戸幕府をひらく。しかも三百年くらい続く。あぁ、しょせん平民の夢は短いということなのか。夜に咲いた花は朝になればしおれてしまうのか。

 

 おれたちが抱いた一縷の希望をジオウの演出は木っ端微塵にした。かなしい。これが現実なのか。つらい。人生にはやはり限界があるということなのか。

 

 しかし、子どもに夢を与えるのが特撮である。これで終わるわけがない。きっと来年のいまごろ、仮面ライダージオウの最終回をみたおれたちは、「あぁ、やっぱ王様になるって、いいよね」とおもっているだろう。馬鹿にされた夢だけど、追い続けてよかった。そうおもって随喜の涙がこの頬をつたうだろう。

 

 だからとりあえず仮面ライダージオウの変身アイテム、ジクウドライバーを購入しようとしたところ、これが電子装置をふんだんに盛り込んでいるためか、あまりにも高額な商品で、身分の低い平民には手の届かない高級品だったのである。カネにこまらねぇ王様になりてぇよ。おれも。

仮面ライダージオウ 変身ベルト DXジクウドライバー

仮面ライダージオウ 変身ベルト DXジクウドライバー