まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

映画「グッドナイト・マミー」は観るとつらくなるから観ないほうがいい

 おばけってこわいじゃないですか。「おばけなんか迷信だよ。ひとの恐怖心が生み出す幻覚と錯覚と勘違いだよ」なんて神をも恐れぬことを云う、タフなひともいるとはおもいますが、でもやっぱ丑三つ時、廃墟になった戦慄の病棟におとずれて、皿回ししながら一輪車漕いで松浦アヤの「Yeah!!めっちゃホリデイ」とか陽気に歌ってらんないじゃないっすか。恐怖するじゃないですか。

 

 そういうゴースト系はおれのなかで「実体のない恐怖」であって、まぁこわいですけども、ちょっとエンタメ感があるというか、ほんのりインタレストというか、なんだかアドベンチャー感があるのですね。しかし、もっとこわいのが「実体のある恐怖」であって、そういうのってやっぱ人間の精神にあるんじゃないのかな、なんておもったりしたのは、映画「グッドナイト・マミー」を観たからである。である調。

 

 二〇一四年に公開されたオーストリアの映画である。美しい郊外に住まう双子の少年のもとに、彼らの母親が帰ってくる。母は事故(?)によって顔面を包帯でぐるぐる巻きにしている。帰ってきた母の動息に、双子の少年はなんだか違和感を覚える。え、なんかママおかしい。ママはそんなこと言わない。ってゆうか、あれはほんとにママなの? 顔見えへんけど、つうかあれニンゲン? そんな疑念が胸裏によぎることから、物語が進行していくのである。

 

 これはおれの感想なので、ちょっとネタバレ気味に書いてしまう。新学期のようなまっさらな気持ちで観たいなぁ、というひとは物語の核心に触れる述懐もあるので気をつけてほしい。ネタバレなしの感想を記載するならば、「うわーあかんぜよ。これは。こわっ。ニンゲンって恐怖だわー。やるせないわー」てゆうのは自分自身の気持ちを胡麻化すための明るい感想で、マジの観賞直後は「だれだよこれ作ったやつ、二度度観ないぞ」である。

 

 世のなかの事情をみていると、とある事件事故によって精神的な異常をきたすことは、しばしば「ある」ことである。いわゆる精神崩壊。それによって人が変わったようになってしまう。他人の幸不幸を、おれが勝手に論ずることではないが、それって不幸なことだとおもう。

 

 人が変わったような母。いったい彼女になにがあったの? というものであったが、じつはこれ、「ママが変わってしまった」とおもう兄弟が精神に異常をしておったのじゃ。つまりルーカスなんていなかったんだよ。エリアスの頭のなかの住人だったんだよ。

 

 むかし、シックスセンスという映画があったが、これのネタバレは有名なのでもう書いてしまうけれども、そういうふうな展開があった。むろん、おれたちはシックスセンスで、かくなる映画ギミックの世界を知っているために、なんとなく「あー、これルーカス死んでるわー」とおもった。そう気付かせるポイントが何度もあった。ジュースとか、ルーカスが他人とはしゃべらないでエリアスに耳打ちする場面とか。

 

 おれは昆虫は宇宙人の放った偵察機器だとおもっている。おれはやばいひとではない。精神は崩壊していない。けれども昆虫のあのフォルムや、奇ッ怪な風貌、怪しい動作をみるたびに「あ、これは地球でうまれたものではないですね」とおもう。

 

 そんな異次元のものなので虫がこわい。劇中でもおびただしいほどの謎の昆虫がもぞもぞと蠕動している様子があり、それをエリアスは蒐集していたのである。かれの狂気はすでにどこかで始まっていたのかもしれない。

 

 仕事上、あらゆる拷問に耐えられる訓練をしてきたおれだけれども、ママがじつの息子にかくなる所業をされるのにはまいった。気が狂っているとはいい条、エリアスの瞳にはまだ無垢でイノセントな光が宿っているのである。ママを取り戻したいというピュアな心であったというのが、これまた心をせつなくする。

 

 最終的にママは死ぬ。マミーだっただけに火葬である。そしてエリアスとルーカスの前には、「ほんとうのママ」があらわれる。彼らが望んだママ。燃えさかる火焔のなか、そっと家を抜け出すママの影が印象的であり、そのあとの三人の笑顔がとても不気味であり、虚しくてせつなかった。

 

 まぁ、あと疑問におもった点がちょっとありましたね。母が帰ってくるまでルーカスはひとりで生きていたのかとかね。いや、彼のなかでは二人なんだろうけれど。

 

 おもしろいか、おもしろくないか、で言えば、おもしろかった。映画のギミックを気付かせるようなリードがなされていて、「ま、まさか……これって……」みたいな。とても残虐なシーンもあり、誰かに奨められる映画ではなかったので、ここに書きました。もう二度と観ないぞ。

 

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