まだロックが好き

まだロックが好き

おめおめと生きている日記

くるりの「ソングライン」を聴きました。おれの好きなくるりでした。

 くるりのアルバムにはそれぞれに「風」のようなものが吹いている。そんな気がする。これは作風うんぬんかんぬんに関係あるのかもしれない。

 

 たとえば、おれの好きな「さよならストレンジャー」には春に吹くまだすこし冷たい朝や夕刻の風。「図鑑」には物憂げな梅雨時のしめった風。「ワールドイズマイン」には季節が滅んでしまったあとに吹く無機質な冬の「すべてが無」みたいな風。「言葉にならない笑顔を見せてくれよ」には夏の夜のむせ返るような風。「ワルツを踊れ」には行ったことがないのになんだか懐かしい異国の街の風。

 

 なんだかちょっぴりかっこいいことを書いてしまったが、おれはそう感じる。どんな「風」が吹いているのかってのは、きっと個人差があるとおもう。でもなんというか、雰囲気という茫洋したことばではない、もっと判然としたものであるのではないかなぁとおもっている。においとかあるし。カレーの歌とかさ。

 

「ソングライン」というアルバムに、おれは、生命がやわらかく躍動するようなやさしい春の風を感じた。とてもいいアルバムだとおもった。おれの好きなくるりだ! とおもった。おれのなかでくるりのアルバムは「好き」と「すごい」で二極化する。

 

 なんだかんだ言って、音楽の枢要はメロディだとおもう。けっきょくそこに帰結する。浮ついた企画物もいいけどけっきょくカップヌードルはシーフードがいちばんうまい、みたいな。そうゆう感覚です。

 

 だからつまるところなにが言いたいのかというと、「ソングライン」の曲たちはもうマジめっちゃメロディが好い、ということである。

 

 音楽はメロだよ、なんて云いながら「その線は水平線」はとにかくギターがめちゃくちゃいい音なのである。たぶんテレキャスなんだろうけれど、パフののっかったビンテージのレスポールみたいな、磁力に艶が出てきて高音が丸くなってきたP90の音っぽくもあるな、なんておもったり。とにかくめっちゃギターの音が好き。たぶんドクターペッパーとか深田恭子より好き。

 
 三回くらい聴いてこの日記をかいているけれど、このアルバムほぼヴァースとコーラスだけ、というようなシンプルな構成の曲ばかりだな、とおもった。かっこつけてヴァースとコーラスとか書いてますけど、なんのことはないAメロとサビって意味です。


 シンプルと言うと、二曲目の「landslide」なんてとても素朴でアナログな音で、おれはすごく好き。裏メロというか、ストリングスとかもふんだんに交わって優雅なかんじなのにけっして豪奢な感じにならないとことか。ピアノの音が当たり気味でそれがまた暖色の花々のなかに青や紫が挿し色で入ってくるようなイメージがあってほんとすてき。

 

「How Can I Do?」もおなじような方向性をもっているような気がするし、というか歌メロが優しい等身大のメロディというか、自然体というか、すっとはいってくるというか。楽しげなラッパが春の訪れを言祝いでいるようで、マジ超コンプリオ。

 

 オーケストレーションて壮大典雅なものになりそうなのだけど、ひつようなものがひつようなぶんだけ鳴っているようなイメージで、すごくやわらかい。音楽ってやっぱ引き算なんだなぁとおもう。

 
 岸田アードベック飲むのか。とおもったのは「ソングライン」である。おれも好きだぜ。ラフロイグとかな。ピート臭きついけどな。てかウイスキーはモルトグレーンなんつってアイラモルトばっかりで、あぁなるほど。やっぱシンプルなものに帰結する、ってことなんですね。ってゆう。なんだかこの曲、岸田の好きなものをぜんぶ詰め込んだ! みたいなかんじしますね。

 

 アルバムの中盤に「風は野を越え」や「春を待つ」をもってきたところがうれしかった。なんかこの二曲、とくに初期感ありません? AメロといいBメロといい。ジャジーな哀愁のラッパは、やはり経産婦の色気は一味違うということで。

 

 おれ「春を待つ」めっちゃ好き。ちょっとチャゲアスみたいだけど。たぶんおれは「さよスト」が好きなんだからこの曲が好きなんだとおもう。なんかそのへんの曲っぽくて。乾湿でいえば今回のアルバムのなかで湿っぽい曲だけど、だからこそアルバムで通すとその霞がかかった曲のオーラと寂寥が水際立ちます。美しいです。

 

 いい曲ってなんだろう。とたまに疑問が胸裏にうかぶ。「好きな曲」と「いい曲」ってのはちがう。いい曲ってのは、たぶんギミックがあるとか、技術があるとかそういうのなんだろうけれど、いい曲の最低条件ってやっぱメロディがいい、ってことなんだとおもう。それがけっきょくいちばん大事なんじゃないのか。


 そんな「だいじなこと」、詰まってます。ってゆうかいちばん短いこの曲にすごいいろいろ詰まってる感。素朴そうなのに中身が暴力的なまでにぎっしりつまってる薄皮饅頭みたいなかんじだとおもいました。


 強いメロディって出し尽くされてしまって、耳に残りやすいのだとおもう。「忘れないように」。まぁスピッツですね。たまにくるりはスピッツ出してくる。でもBメロがめっちゃくるり。めずらしくベースがぶりぶりしてんな。てかコードの当て方なに。

 
 全曲、アコギやピアノで弾き語りしてもそれだけで芯のある曲たちに、その主題が食われぬように新しい色彩を帯びさせていったのが今回のアルバムなんじゃないかとおもった。僭越ながら。


 おれは個人的に音楽ってそういうものだとおもう。言葉とメロディーがある。そういった回帰的なアルバムなのかな、なんておもった。ふいに唇から漏れるメロディに装飾をほどこす。好きなことを歌う。音楽の原点ってそこなのかもしれない。くるりは偉大なバンドになったからこそ、だいじなことを忘れてないようにしているのだとおもう。

 

ソングライン <初回限定盤A:CD+Blu-ray>

ソングライン <初回限定盤A:CD+Blu-ray>