中山康樹が、ロックン・ロールが「ロック」と呼ばれるようになったのには「フォーク・ロック」というジャンル名が使われはじめたことに拠る、と書いていた。マジかー。
フォーク・ロックといえばノーベル賞をとったボブ・ディランを思い浮かべるひとがおおいとおもう。おれもそう。「Bringing It All Back Home」や「追憶のハイウェイ61」とかのあのへん。むろんディランが曲を提供したバーズなんてのもフォーク・ロックの嚆矢だとおもう。
そもそもフォークがロックなのか? というと、フォークはめちゃくちゃロックだとおもう。今様の「ロック」の意味はなんとなく「反抗」とかだとおもうのだけれど、ってゆうかそういう意味意義主張も多分うすれてきていて、単なるファッション的な感覚もあるけれど、やはりロックは「反抗」の代名詞なのだとおれはおもう。
そんな「反抗」をいちはやく政治にむけてやっていたのがフォークの「プロテストソング」部門であった。50年代にピート・シーガーというひとがやっていたウィーバーズというフォーク楽団は、民衆にあたえる影響を危惧され「赤狩り」の対象となり、活動を断念せざるをえなかった。
余談であるが、ロックンロールが白人と黒人の音楽を成し遂げた、といわれがちであるが、じつはフォークこそが先んじていた。それは、黒人の曲を白人がカバーする、という単純な構図のものであるが、それをやっていたのがウィーバーズである。レッドベリーの曲とかやってたみたいよ。
元来、フォークソングというのは記録に残っていない、ひとびとの魂にのみ宿っていたメロディだった。それを蒐集だしたのがローマックス父子である。彼らは現代でいうとこの音鉄であり、各所をめぐってはその民族音楽を記録していった。
民族音楽といっても、幼い頃ころ母のくちびるに灯っていたあのメロディであったり、居酒屋で微醺を帯びた父が友人達と肩をくみ高歌放吟していたものであったり、という、ほんとうにちいさな音楽であった。
だがそれゆえにフォークソングというのは民衆を勇気づけた。それを耳にしたとき、故郷をなつかしんだり、家族をおもったりした。そうして今のつらい日々をのりこえよう、とおもったのである。だからこそすこし政治的な偏りがうまれてしまい、それが結果、フォークをプロテストソングたらしめてしまうのだろうけれど。
そういうふうにフォークをひとびとの心のために歌うひとがいた。それがウディ・ガスリーである。ようやく主役が登場しましたね。
ウディ・ガスリーは典型的なホーボーで、ギターを持ち、列車に乗り、あっちこっちに行きフォークソングを歌いまくった。なんのために? 労働者のために、である。
スタインベックが「怒りの葡萄」という本で書いてあったので、みなさんご存知だとおもうのだけれど、当時、砂嵐の天災がすさまじかった。突き出した手が見えなくなるほどの砂塵だったそうだ。
ゆえにウディ・ガスリーが依拠していたオクラホマ州などでは労働者たちが貧困を極めていたのである。ウディはそのことを「Dust Bowl Ballads」というアルバムに残している。
司馬遼太郎というひとの著書に「竜馬が行く」というのがあって、これおれすごく好きなのだけれども、そのなかで「竜馬がやったのはジャーナリズムである」ということが書かれていたとおもう。
どういうことかというと、「ひとにモノを伝える」。ウディ・ガスリーがやっていたのもこれにちかいのだとおもう。歌で惨状を伝える。そうして歌でひとの心を癒す。蓋し「音楽のメッセージ性」というやつだとおもう。
そのためにウディに必要なのは「ことば」だったようだ。村上春樹によれば、彼はわざとスペルを間違えるように歌詞をかいたそうだ。たとえば「know」の過去形を「knew」ではなく「knowed」とか。それは教育をうけていない労働者たちにもわかるようにとの酌量だったそうだ。なんだかちょっぴりいい話し。
ただ、このウディの曲というのはあまりレコード化されていない。そしてなにより正直に、赤誠に、ありていに、ぶっちゃけて言ってしまうと、とくに聴くべきところもない古臭い音楽だとおもう。つうか本人も自分でつくった曲はすぐに忘れてしまっていた様子である。
ただ彼の歌詞にはフォークの淵源ともいうべき「ことば」がつまっている。それを現代のメロディで、現代のサウンドで蘇らせたのがビリー・ブラッグという英国人である。ウディの子孫がビリーに「この未発表の歌詞で歌を創ってくれ」と依頼したらしい。
その音楽こそが1998年に出した「マーメイド・アベニュー」である。これがすごくよかったんです。ということを言いたかったんです。
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なにより、ビリブラといっしょにウディの曲を構築しているのがアメリカのフォークロック(さいきんはそうでもねぇけど)バンド、ウィルコなのである。
まとめたバージョンもでているけれども聴いていない。おれはボリューム1~3まで聴いたのだけれど、ボリューム3はアウトテイク集らしく、いまいち精彩に欠く印象である。しかしボリューム1がとてもいい。おれの好きなウィルコ。もうビリー・ブラッグなんてイギリス人は関係ないっす。とにかくあの初期の渇いたウィルコが聴けるのである。
さいきんのウィルコはどうもアーバンでアーティスティックな曲がおおいけれども、おれは初期のウィルコが好きで、このアルバムのことを知らなかったので、聴けてとてもよかった。ビリーと半々くらいで歌っている。ウィルコ好きは聴いたほうがいいです。
Mermaid Avenue: the Complete Sessions
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