まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

マムフォード&サンズってもうブルーグラスやんないの?

 新しいアルバム聴いた? 「デルタ」ばかいいね!! はっきり言って前作の「ワイルダーマインド」はおれのなかで無かった。あぁこれは無かったことにしようと脳が判断した。だから記憶にない。

 

 でも「ワイルダーマインド」があってよかった。この「デルタ」というアルバムに繋がったのだから。ツェッペリンで言うとこの「Ⅲ」だよ。いや「Ⅲ」は好きなアルバムだけど。ちょっと賛否がある。きっとボブ・ディランがエレキ化したときも、こんなふうに言われたんだろう。

 

 詩的でエレガント。清亮めきたる楽曲。しゃれてる。マーカスの、吐息を大事にそっとおいてくるようなボーカルが叙情的だし。静謐でありながら瀟洒。どの曲も似通っていて冗長かもしれないけど、霧散したエネルギーには情熱が通底しているとおもう。

 

「42」という曲から始まるのだけれどハーモニーが壮麗。ちいさな教会で祈っているときにこれ流れたらたぶん世界中の戦争とかふつうに終わるのだとおもう。ファーストもそんなふうな一曲目だった気がする。

 

 とにかく「サイノーモア」というファーストアルバムが傑作だった。おそらく「バベル」というセカンドアルバムが人気なのだろうけれども、あちらはちとポップ。おれはファーストのほうが好き。

 

 おれはおそらくこのマムフォード&サンズというバンドに一種の知的な芸術性をもとめてしまっているからなのだとおもう。おれみたいな一知半解の徒がなにを言ってるんだってなものだけれども「サイノーモア」というアルバムには、そういったインテリジェンスの韜晦があったようにおもう。なんかこのひとたち頭良さそう。

 

 いちおう彼らはブルーグラスというジャンルになるのだろう。カントリーとかフォークとか。ちなみにアメリカンミュージックである「カントリー」という名称、これはイギリス移民の「ケルトミュージック」が訛って「カントリーミュージック」となった、という説は嘘だとおもってる。

 

 しかしいまやオルタナという区分であるようだ。有体に言って、彼らのブルーグラス風味のバンジョーが纏綿とする楽曲がけっこう恋しい。アコギがパーカッショナブルで、バスドラが頭打ちで。なんかもっとこうトラッドなやつ。

 

 しかしマムフォード&サンズの方向転換は結果としてよかったのかもしれない。おかげで彼らはただのブルーグラスバンドで終わらなかった。彼らの尤物はその特異な音楽ジャンルではなかったことを示したのだとおもう。

 

 彼らの音楽の芯にあるのは、寂寞の美しさだとおもう。「サイノーモア」を聴いたときにおもったのは、まさに漏れた溜息の、その孤独な美しさだった。森閑とした侘しい部屋で壁に染み入る溜息の音。そういうふうなの。日本庭園見て「侘びいるわぁ」みたいなやつ。

 

 彼らのデビューはその「侘び寂び」をカントリーやブルーグラスという「趣き」とは千里の径庭があるジャンルでやったことに音楽史的意義があるのだとおもう。たしかに烈しい曲もあるけれど。

 

 その「侘び寂び」の風流をバンドの規模とともに敷衍していった。ゆえに「デルタ」には静かな湖畔に濛気する霧のごとき寥々とした空気感がある。霧のねばりつく湿度が鼻腔のおくに闖入してくるようだもの。ほんと一句詠めそう。

 

 ぶっちゃければデルタにはキラーチューンのような曲は無い。「The Cave」や「I Wii Wait」みたいなのは無い。けれども彼らの骨子である「寂しさの美」みたいなものは通奏低音のように響いている。彼らはそういうバンドになっていくのだろう。とてもいいアルバムだとおもいました。

 

Delta

Delta