まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

Cloud Nothings「Last Building Burning」

 スティーブ・アルビニというとおれのなかでは「イン・ユーテロ」よりも、モグワイの「マイファーザー・マイキング」という一曲である。というのもスティーブ・アルビニという人をはじめて意識したのは、二十分という長尺のドラマチックなこの一曲だからである。

 

 ナイジェル・ゴッドリッチと小林武史の次に耳にするプロデューサーが、おれのなかではアルビニさん。特定のバンドの顧問プロデューサーというかんじではなく、たずさわった作品の印税もうけとらず、いわゆる取っ払いでプロデュースするイメージ。山に篭って仙人みたいな生活してて、世俗との付き合いを一切しなそうなかんじ。でも知的でなにかすこしでも癪にさわることを言ってしまうとめちゃめちゃキレそう。

 

 どういうプロデュースをするのかというと、一言で言えば、暗くて美しいパンクだとおもう。この人がプロデュースすると、とにかくアルバムに翳りがでる。荒々しくて、凶暴で、生生しいのだけれど、なぜだか人心の闇の淵源を覗き見させられている気分になる。太宰治が好きなひとはアルビニ好きな気がする。

 

 クラウド・ナッシングスというアメリカのバンドの二枚目「アタック・オン・メモリー」は、まさにおれのなかのスティーブ・アルビニ像にぴしゃりと吻合するアルバムだった。退嬰的で内省的で超美しい。なんというか瀟洒で詫び寂びがある。芸術的です、はっきりいって。

 

 おれのなかでポストパンクというジャンルは、張り詰めていた糸がぷっつり切れてしまって、部屋をめちゃくちゃにするほど暴れまわったあと、その嵐の惨劇場に森閑と佇むやる瀬無さ。これがとっても大事だとおもう。

 

 そういったかんじがアルビニによってより鮮明に、狂気的に録音されると、きほんてきにすごいアルバムが出来てしまうのではないかしら。その最たるものが「イン・ユーテロ」なんじゃないかな、なんておもったりする。

 

 でもクラウドナッシングスの五枚目の新譜は、ぜーんぜんそんなかんじではなかった。めちゃくちゃパンク。オルタナ? よくわかりません。とにかく漲っている。二枚目のような美しさはないけれど、逆にそこがよかった。ってゆうかこのバンドそもそもメロが良くて好き。

 

 上記にポストパンクのイメージを写したけれども、おれのなかのパンク像はただ部屋のなかで暴れまわっているかんじ。とてもシンプル。アタックオンメモリーのような重さが無かった。松尾芭蕉風に言えば侘び寂びの果てに「かるみ」を得たとでもいうべきだろうか。

 

 おれはすこしデジタルな音楽が苦手なので、こういったアナログで、粗暴なバンドがまだ聴けるのはとてもうれしい。好きなアルバムになりそうです。

 

LAST BUILDING BURNING [CD]

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