2歳児の通園に憔悴しきっている。
その目方15キログラムは、子育てマッチョである私にもさすがに重労働である。
そんな現状の打破に自転車を所望した。
なのでサイクルベースあさひという自転車の売人が占拠する場所へ赴いた。
暖簾だしとほぼ同時に行った。店内にはゴムの匂いが充満していた。
故障、修理などの来客が多かった。ちいさな店内はすこし雑沓していた。
そんな中、売人に声を掛けた。
「子どもを運搬できる自転車を所望している。もしそれらがあったら、そして可能であれば試乗させて呉れないか」
をもっとふつうに口語体で平身低頭して言った。
そしたら藪から棒に「お名前ちょうだいできますか」と言われた。答えにならない答えだったが応答した。そしたら「順番に呼びますので」と言われた。
細かいことだとは思うが、これは発言があべこべである。
「順番にお呼びしますのでお名前うかがってもよろしいですか?」が正しい。
さいきんそういうの多いからもう気にしないけれど。あと「お名前ちょうだいできますか」はよく聞くフレーズだが誤用なので使わないほうが良い。俺は性格が悪い。
程なくして、いやけっこう待ったけど、呼び出されたので「あいあい」と返事をしてカウンターへ赴いた。カクカクシカジカを伝えた。
担当してくれた方はとても気さくな方で「あー、そういうのないっすね」と言ってくれた。私たち夫婦は基本的に人見知りなのでこういったフランクな対応が出来る方を見るとついつい尊敬してしまう。
どうやらママチャリのキッズ乗車部分は後付が主流らしい。だからもともと備え付けられているのは電動機付き自転車しかないそうだ。しかし電動機付きのものは10万以上するので私たちには手が出ない。私はあまりの悔しさに額づいて慟哭した。
でもまぁ自転車の感覚を掴みたかったので、電動機付きを電動させずに試乗させていただいた。わが子がちゃんと乗れるのか不安だったからである。
試乗の印象はまずまずだった。あと担当のHさんは嫌々ながら私たちを補佐してくれた。終始あごをしゃくり、どちらかの足は手前に投げ出し、そしてなにより斜に構えた物言いが最高にロックンロールだった。
担当のHさんは「こいつらは買わない」そう思ったのだろう。無精なその様は「買わざるものは客ならず」といった態度だった。櫛比する自転車の中から溜息とともに対象商品を牽引する姿を拝見して我々はきまりが悪くなった。
それと同時に「彼はまさに商売人だな」と畏敬の念を払わざるを得なかった。
そんな畏怖の対象となった担当のHさんの対応を受けていたら、なんだか釈然としない、申し訳ない気持ちでいっぱいになったので感謝の意を述べて帰宅した。
彼は自転車の売人としてプライドを持っていたのだと思う。
素敵だな、と思ったが、二度とあのサイクルベースあさひには行きたくないなと思った。その輝きが私たちには眩しすぎたのだ。
どこの自転車ブローカーに電話しても、子ども乗せ自転車の試乗はできない、という話だった。
なので一か八かネットで注文することにした。cymaという自転車通販サイトである。
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実機を見てみないと不安だったが私は勇気を振り絞った。スマホの画面に出てくる購入画面をタップした。すぐに確認メールが来た。
明くる日。見知らぬ電話番号から音声信号を受信した。
サイマからだった。自転車の発送日についてだった。
荷物の受け取りは自宅におらずとも、自宅の敷地内に自転車を放置しておいてくれるという連絡だった。共働きの我々にはたいへんありがたいシステムだった。
またその電話の対応がとてもよかった。
これは嫌味でなく懇切丁寧で溌剌と私にもわかりやすい言語で話をしてくださった。
彼女の名前は聞きそびれてしまったけれども、その応対にサイクルベースあさひでは感じなかった清清しい仕事へのプライドを感じ取った。
妻が帰宅するとそれが鎮座していた。
ネットの写真よりもブラウンがラメラメしていたが品物はとてもよいものだと思う。
そんなこんなで本日から自転車を運転して通園している。
サイマさんにありがとうと言いたい。