まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

セブンの蒙古タンメン中本「北極ブラック」

 にんげん誰しも慢心をもっているとおもう。その慢心ゆえ詐欺にひっかかったり、飲酒運転をしたり、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」を読んでくじけたりする。だれしもが「自分ならだいじょうぶだ。イケる」とおもっているのである。

 

 例にもれず、かくいうおれも慢心に満ちていた。というのもセブンイレブンという美味いものの伏魔殿で「蒙古タンメン中本 北極ブラック」なるものが販売されていたがために、ついうかうかと手をだしてしまったのである。

 

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画像引用元:セブンプレミアム 蒙古タンメン中本 北極ブラック|セブン‐イレブン~近くて便利~

 

 おれは辛いものが好きである。それはきっとおれが生誕した一九八六年の流行語に「激辛」というワードが入っていたからであろう。つまるところ激辛にかんしてはネイティブ。そんな激辛の加護に守られたおれであっても、この北極ブラックは残念ながら「おのこし」をしてしまったのである。

 

 そもそもおれはセブンの蒙古タンメン中本が大好きである。有体に言えば、本家よりも美味いとおもっているところがある。ほんとに美味い。マジで超好き。いままでたくさんの嘘をついてきたが、これだけは自信をもって言える。それが、あなたが好き、ということ。

 

 セブンの蒙古タンメンの美味さの真髄は、なんといっても「コク」だとおもっている。味噌のコクやポークのコクがすさまじいパワーを効かせている。そのコクの大波にサーフィンしてるのが「辛さ」であり、辛さがすこしでもバランスを崩してしまえば、すべてが水泡に帰す、累卵の危うきにも似た魔術的奇蹟の絶妙感でなりたっているとおれはおもっている。また具材もいい。

 

 頃日、これに納豆を混入させることが巷間で流行っているらしいが、きっと合うだろう。おれも是非やってみたいとおもうのだが、やはり彼女のありのままを愛していたいので、なかなか逡巡してしまうのである。

 

 そんななかブラック、というよりも問題はこの「北極シリーズ」であろう。以前も「北極」という本家シリーズを踏襲した製品をセブンは企画開発しているが、これはおれも何度か食った。勝率は六割くらいであろう。しかしやはり辛いのである。

 

 味噌ベースであるスープのコクは喉ごしで感じられる。しかし、そのまえに舌が炎症してしまう。カプサイシン、まったくもって油断のならぬことである。その辛味は粒子となって湯気にまじっているため、鼻腔をもってあじわいを感じようとすると、「噎せ返り」という脆弱な人体の防衛能力が働くために、ちょっとあわれなことになる。

 

 今回の北極ブラックは、焦がしにんにくをフィーチャーしたものらしい。なるほど従来の北極よりも焦がしにんにくの「丸み」、いわゆるマイルドさがオーラのごとく充溢しており辛さをカバーし、たいへん食いやすくなっている。

 

 だがやはりその正体は北極であり、もう舌とか痛いし、口腔内の秩序を守ろうと脳が指示するのか、唾液がすごくたくさん出てくる。またそのネーミングも効能をしめしているのだろう、食いだすとちょっとした悪寒をかんじはじめるのである。

 

 そしてついにおれは残してしまった。「おれなら食えるっしょ!」と驕慢だったのだ。江戸っ子たるもの「義理と人情、やせ我慢」という十字架を背負わねばならぬのだが、あいにくおれは駿河の生まれである。温暖な気候でそだった悠然たる精神では、決然とした蒙古に打ち勝つことは叶わなかったのである。

 

 むろん、のこったスープを流しにこぼすさい、シリアの難民や、皮と骨だけになったアフリカの子どもたちの顔が浮かばなかったわけではない。だが今のおれにはどうすることもできない。おれはなんて無力なんだとかなしくも歔欷の夜を迎えたのであった。

 

 しかし今おもってみると、あんな辛いカップラーメンを救援食量として送られても、難民たちはただただ狼狽するだけではないだろうか? ともおもう。けっしてまずいわけではない。うまいんだ。うまいけど、たぶん草木に撒いたらそこは枯れる。けれどもきっと排水溝の雑菌は死滅したであろう。カプサイシン、油断のならぬことである。