まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

四歳児とスイミングスクール

 這えば立て立てば歩めの親心、なんて昔から云うけれども、じゃあそのネクストステージは? つったらやはり「泳げ」なんじゃあるまいかと、おれなんかは愚考する。

 

 過日。独自のネットワーク*1により仕入れた情報によると「小学生までにほとんどの子どもが泳げるようになっている」とのことであった。これを噛み砕いてその本質を見極めれば、つまるところ、親は子どもに泳法を伝授しなければならぬ、ということになる。

 

 うそだろう……と怪訝と焦燥をやどしたおれは、入念な諜報活動*2を試みた。するとどうだろう。みな意をそろえたかのように「親が教えることは稀であろう。我々はスイミングスクールにかよっている」と云うのである。

 

 はっきり云って絶望しました。だって子育てって、親と子どもが健やかに生きていければいいのだと妄信していたからです。そんな折、「スイミングスクールに通う」なんてことになれば、一家のスケジュールはスイミングスクールに圧迫され、休日という言葉はまさに読んで字のごとく名折れ。ちっとも休めず疲れを翌日まで継承し、生涯疲れているという人生の悪循環に陥る、つまりスイミングスクールのその正体とは、疲れのカルマを背負う、ということであるからです。

 

 それはヤバイ。とおもった吾が郎党は、これからはどんなことがあってもスイミングスクールを避けていこう、泳げない人生でもいいじゃないか。と、息子の人生にひとつの諦めという刻印をしようとしたところ、神のいたずらであろう、拙宅のポストに「スイミングスクール、いまなら入会金無料」などと、楽しそうな水泳キッズの写真のうえに堂々たる赤字でかかれた広告が投函されていたのである。

 

「スイミングしたいか?」と広告を握りしめ、四歳児に問うたところ、「おれスイミングしてぇんだよ」と言を俟たない。そうか……と一口言葉をもらしたおれは、どうじに一つの決意を眉宇に漲らせたのである。すなわち、「行こう、スイミングスクールへ……」と。

 

 とは言っても戸塚ヨットスクールの事例などもある。ひとは歴史に学びますね。よってまずは無料体験スクールというやつに参加したのである。これはべつに「無料」という魅力的な惹句に惹かれたわけではない。

 

 拙宅より車で五分。スーパーマーケットを抜けた細い道にそれはあった。すでにスイミングを終えたであろう門下生たちが、まだすこし濡れたままの髪を風にゆらしながらあちこちに歩いていた。

 

 その日は土曜ということもあって、たくさんの参加者が輻輳していた。これがおなじ釜の飯を食う同胞(はらから)になりうるのか、それとも闘諍をくりかえす宿敵(ライバル)になるのか、とあたり睥睨しておったところ、息子と同じこども園にかよう四歳児も現れたりして、なんだか息子は欣喜たる面をさげていたのであった。

 

 水着に着替え、観覧席で待っていると、講師らしき女性が子どもたちの名前を呼んでいる。目の大きい小柄な、明朗な女性であった。おそらく講師として経験をふんだんに積んだのであろう、子どもの扱いに泰然自若たるものがあった。

 

 こういうとき、「行きたくない」などと言う子がかわいいとおもう。が、吾れらが息子はそんなそぶりを毫末もみせず、「じゃあね」のひとこともなしに、講師の女性についっていってしまったのである。パパはさみしいぜ。

 

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※写真がだいたいブレる

 

 観覧席はプールの二階部分に設えられており、アクリル板のようなもので遮られていた。階下のプールで放たれた言語は、ぼんやりとくぐもっていて、なにかを言っているようだが、なにも聞こえない、という環境になっていた。

 

 二階から息子の姿をみていた。十二人の参加者が年齢別にわけられ、息子は五人のキッズにまじって体験をしていた。そんな息子の姿をみていると、おれはちょっと感動してしまう。いっちょまえにちゃんと講師の言うことを聞き、顔に水をつけ、バタ足をし、順調にことを成し遂げていたのである。

 

 プールから上がってきた息子は「たのしかった」と云った。講師の先生も「ようたくん、ふだん御風呂で顔つけてます? これならジュニアコースからですね」なんておっしゃって、まるで惑星直列のごとくスイミングスクールに通う条件が並んでしまったのである。

 

 ふと気がつけば、申し込み用紙に個人情報を記入している自分がいた。おれの順調な人生のシナリオでいけば、この体験入学で息子はスクールに飽き、水への恐怖心からガタガタふるえ「もうかえりたい」と云いながら、人生にいっさいの変化はおとずれない筈であった。

 

 しかし、じっさいはこれからの土曜を息子のスイミングスクールに費やす算段をすることになった。月謝は七〇〇〇円である。これで月四回。なんたる手許不如意。

 

 だがおれは体験入学で息子の才能の爆発をみた気がした。この天稟をもって将来はヨーロッパなどに外遊し、最終的には運動の祭典などで活躍するんじゃないか? そしたらコカコーラ社の広告などに出て大量の金銭を受領し、おれたちはスポーツ選手育成の泰斗として左団扇の生活、なんてとこまで考えると、どうやらすさまじい未来の革命がおこりそうな予感がしているのである。

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*1:妻の近所のママ友

*2:こども園での事情聴取