どうしてですか！？ と語気を荒く陳情訴訟したくなる。秋の花粉についてである。
なぜならば秋。私の人体は花粉症に犯される。中空を乱無する花粉にたいし、排斥運動がなされるのか、目のかゆみ、鼻づまり、喉のいたみ、全身の倦怠感。その複合状態をカルマとして背負う。ここが地獄でなければ、なんと呼ぼうか。
まぁべつにそれは仕方ない。俺の人生だ。だけどどうしても得心のいかないことが２点ある。それが地獄のなかの煉獄。だから述べたい。というか叫びたい。全国民に訴えたい。以下の２点である。
- 春に比べて被害者が少数
- ブタクサというネーミング
春に比べて被害者が小数
秋の花粉症発症者は、春に比べてすくない。ゆえに理解者がすくない。春の花粉に悩まされた人間たちは、秋に苦しむものに対してなんの念慮ももたらさない。
ひとは春に眉を焦がす。地底より呱々の声をあげる花粉にたいし戦々恐々とする。飛来する花粉は、まるで水中に群れる小魚のように、とらえどころのない融通無碍な姿として、各々の畏敬の形として強襲する。ときにそれは魔手であったり、逆巻く荒波であったり、うさぎの耳が生えた巨大な偶像だったりする。
ゆえにニュース番組などでもひとびとを扇動する。「本日の花粉注意報」などと電子文字を画面に掲載し、日本列島のあちらこちらで花粉がやばい、と言う。そして人びとは顔面をガスマスクで覆い、薬品店も抗アレルギー剤などを風呂敷いっぱいにひろげる。
世情がそんなだから。われわれ秋の花粉症患者は春のそれに「だいじょうぶ？」と言う。その苦悶は理解できる。私だって秋に辛酸を嘗める。顔面の煩悶にそっとティッシュなどを差し伸べる。わかる。わかるよ。たいへんだよな。つらいよな。そんなことを腹蔵なく思う。
でも、そしたら春の花粉症患者はなんて言うとおもいます？ 「いいよね、花粉症じゃない人は」ですよ。「このつらさ。あんたにはわからないのよ！」と言う。つらい罵声を浴びる。そうして秋の花粉症は、巷間で流行の春花粉にのれず、いっつもひとりぼっち。そのつらさ、わかるのに。だからやさしさだって振舞うのに。
そして秋。花粉に懊悩する秋花粉の被害者に、春の花粉被害者はどうおもうのか。
無関心なのである。愛情の反対は無関心。まさにその通りだとおもう。彼らはなんの関心もいだかない。鼻腔をくすぐるのは、颯爽とした秋風だけだとおもっている。
まさに驕慢。かつて抱いていた塗炭の苦しみを、現在進行形で嘗めているひとびとに対し、なんの忖度もせずに悠然と日々をすごしている。春風駘蕩。まさにこの世の春といわんばかり。秋なのに。涼風を頬に受け、天高く澄み渡った蒼穹にとんびの姿を仰ぎ見る。それでいいんですか？ 惨憺さる面持ちで苦しんでいるひとびとがいるのにそれでいいんですか？ あなたたちは忘れてしまったのですか？ あの時の苦悶を。鬱慮を。拷問を。ほんと人としてどうかしてる。
ブタクサというネーミング
ないわー。ブタクサはないわー。秋の花粉はおもにブタクサと呼ばれる種類である。どうですか？ ブタクサという名前。スギ花粉のみなさん、どうおもいますか？ ひどくないですか。ブタクサ。めっちゃださい。
スギ花粉。なるほどわかる。これは瀟洒だ。ヒノキ花粉。これもわかる。かっこう好い。これらは春の花粉であり、市井の民を懊悩させるアレルゲンである。しかしこれらが舞うことにより、木々は受粉し、大地に緑を生やす。その緑、大木となった命脈を人類は切り、生活に役立てている。
でもブタクサってなんですか。なにか役にたちますか？ 日々の生活でブタクサというフレーズを耳にしますか？ たぶんしない。ブタクサは役に立っていない。そんなブタクサに苛まれている。なんで？ なんでそんな地球上の生命体にとってなんの意義のない不可思議なクサのために俺は苦しまねばならないのか。
なにより冠詞がブタって。これがせめてトラとかドラゴンだったら許せる。なのにブタですよ。よりにもよってブタって。これがほんとに嫌になる。すごく頓馬。そして愚鈍。なんたる蔑称か。ブタって悪意のある形容じゃん。なんでブタなんだよ。上記のかっこよい感じじゃなくても、せめてシカとかウシにしてくれよ。てかクサってのもなぁ…。スギとかヒノキはいいよね。なんか屹立している感じがさ。かっこいいじゃん。
総括
まとめも糞もない。春の花粉人はもうちょっと秋の花粉人をおもんぱかってほしい。花粉って春だけじゃねぇからな。ってかニュースも報道しろよ。秋も花粉注意報しろよ。なんでブタクサだけ不遇なんだよ。ってかブタクサって言いたくないよ。ださいもん。
