アリさんマークの引越社、という株式会社が「なんでそんなにでかくなったのか」という自問自答に「まじめにやってきたからよ」なんて言っていて、これは差別だとおもった。すなわち、かれらは暗に「ちいさいものはまじめではない」と言っているのである。訴訟問題である。
まぁでも世上万般、大男総身に知恵が回りかね、なんていうので、そんな戯言もゆるしてやるか、という気性になったものの、はて、おれはけっこう真率まじめにやってきたつもりなのに、なぜかそんなに大きくないのは、どういう因果なの? とおもったのである。
しかし年齢的にこれいじょうおおきくならない。だから、廉直まじめはもうやめよう。いっそ悪に染まろう。そうおもったのである。悪に染まるにはなにからはじめればよいのか。あの手の中で胡桃をカチカチするやつをやろう、とおもったのである。
くるみを所望したので、アマゾンで諜報活動をしていると、ひとつの商品に目が注がれた。写真機で光の瞬間を切り取ってみた。なかなかの写真術であった。以下である。
みてくれはガンダムハンマーみたいだし、色彩はポップである。が、これを手の中で回転せしめ、カチカチ、コロコロしていると、なんだか悪いことを権謀術数しているみたいで、ほんとおれって老獪、みたいな気持ちになることができた。
しかし、悪役の気分になれただけではなかった。存外な効果があったのである。それはつまり、不眠の対策になった、ということである。
おれは不眠気味だ。すっ、と眠れるタイプではない。だから酒をのんで意図的に人事不詳に陥り、酩酊して気絶せしめていたのだけれど、よんどころのない事情により、いまは酒を飲んでいない。
つまり眠れない。読本などしてみても、おれは裸眼が凄まじく悪いため、ひたすら肩を凝固せしめるだけである。さびしい人生だ。
だからおれは布団の中でいつも輾転反側としていた。そんなときに悪役になろうとおもったのである。闇に乗じて悪事を謀ろうとおもったのである。
そうしてこいつをくるくるカチカチ。たなごころのなかでもてあそぶ。このとき人体にふたつの反応が喚起され、それがひとを、おれを眠らせようと、催眠の効果があったのである。そのわけを話そう。パブロ・ネルーダ。
まず一つ。手の平のツボが刺激される。手のひらにはたくさんのツボがあるらしく、それが丸い突起により刺激される。手の中が熱くなり、末梢神経の血流が果々しくなっている感がある。科学的根拠はない。個人の感想です。
ときおり、妻が手をマッサージしてくれることがある。そのとき、手のひらを按摩されると眠くなる。そんな按摩とどうようの効果があったのである。
ふたつ目の効果は、これを手のなかでコロコロしていると、なんだかなにも考えずにすむのである。これがすごくすてき。
おれは頭のわるいくせに、いろいろと考えすぎる癖があり、「今後の人生プランどうしよう」という不安がいつまでも払拭しきれずにいるのである。しかし、手の中でコロコロしていると、脳神経が総動員で手先を運動せしめようとし、ニューロンとかシナプスとかの電気信号が、ふだんの「明日も会社いやだな、どうしよう」みたな思想にまでたどりつかないのである。かといって、「人差し指を曲げ、どうじに中指を同期的に半分曲げし、そのぶん薬指と小指は脱力し…」などかんがえるわけでもなく、無だよ、無。なにも考えずにすむ。これがとってもいい。
あたまのなかがカラになるのはいい。くるくるしながら妻とテレビなんかをぼーっと眺めていると、このインソムニアのおれが眠くなるのである。妻も「これいいね」つってた。
まぁ、あとおまけの効果として手持ち沙汰がなくなる。いいよね。スマホいじらなくなる。ほんとは悪事を謀ろうとしたんでなく、スマホで疲れた腕の筋肉をうごかそうおもったんですよね。手のリハビリなんかに使われてるみたいだし。肩とかにあててマッサージしてもいいね。100均とかであればいいんだけど、そうなると某引越会社みたいなダンピング、不当廉売がおこって、デフレーション。世の中たいへんですね。