まだロックが好き

まだロックが好き

おめおめと生きている日記

髭の「すげーすげー」を聴くと幻覚作用が起こる。危険だ。

音楽は心に風を運ぶ。

と、断定的なかっこいい冒頭文を書いてしまった。これは今後の文脈のなりゆきを支配するのでは、と懸念している。でもそう思っているのです。私は。と、倒置法を用いると、なんだか主語が強調されますね。ってなにを書いているのだ、俺は。

 

髭というバンドの「すげーすげー」というアルバムを聴いた。1曲目の「もっとすげーすげー」を聴いたとき、心に風が吹いた。それは脳に幻覚作用をもたらした。瞬間、私は高速道路を走っていた。

風が右ほほをかすめた。すべての風景が抽象的に流れていった。排気ガスのにおい、アスファルトの熱されたにおい、たまねぎ、にんじん、キャベツ、ベーコンなどを煮詰めたにおいが私の鼻腔に薫った。なぜならじっさい私は拙宅で野菜スープをこしらえていたからである。

 

重複するが、1曲目の「もっとすげーすげー」という曲がとてもかっこよかった。軽快なアメリカンロックっぽかった。旅に出たくなる曲だった。曲調はアップテンポだが、旅に出たくなる度合いは個人的にくるりの「ハイウェイ」水準だった。


髭『もっとすげーすげー』[Official Music Video]

 

話は変わるようで変わらないのですが、ジャックスマネキンというバンドにはまっていた。ピアノエモというジャンルである。ジャックスマネキンはカリフォルニアのバンドなのだが、彼らの曲を聴くとカリフォルニアに意識が飛ぶ。なんだか、カラッとした空気と砂塵が舞あがるサンセットのなか、勾配のはげしい坂道の先に見える陽炎を目指している雰囲気になってしまう。とても感傷的な気分になるのである。

Everything in Transit

Everything in Transit

 

それはエモというジャンルのせいもある。だが、私が言いたいのはそのバンドの土着的な空気というのは音楽に入ってしまうのではないか、ということである。

つまり、このカリフォルニア産地直送のジャックスマネキンを聴くとカリフォルニアの幻想を抱いてしまう。そしてこの髭の「もっとすげーすげー」を聴くと、彼らの現場の雰囲気、つまり、ツアーでバンドワゴンに乗り込み、ニッポンの高速道路を風を受けながら走っていくような感覚が湧き出るのである。

 

音楽というのは脳に幻覚作用をもたらす危険な娯楽である。ときにそれは衝動的に踊りたくなるときもある。

上記に申し上げた「もっとすげーすげー」のような軽快な曲もあれば、狂喜乱舞な宴会ソング、3曲目の「S.O.D.A」、6曲目の「CLASH!LAOCHU!」、7曲目の「ユーは13?14?」も脳内にパーティーの幻覚を催し、踊り狂いたくなるような曲だった。いかれている感じが出ていた。こういうのをやるバンドはライブバンドなんだな、と思う。仕事がなければ一緒にドサ回りしてあげたいですね。

しかし峻烈にセンチメンタルを起想させる様相の曲もあった。4曲目の「TOMATO」、9曲目の「あうん」、10曲目の「U4」はとてもよかった。私が好きな曲はこういう曲なのである。とてもよかった。センチメンタルな気分になった。あと「スターマイン」も好きだった。

 

じつは髭というバンドはあまり聴いたことがなかった。存在は知っていた。あらためて聴いたらとてもよいロックンロールバンドだった。過去作もすこし聴いてみたいな、と思った。

 

この「すげーすげー」を聴くとバンドメンバーを揃えてツアーにでたくなる。全国津々浦々をハイエース一台で駆け巡りたくなる。バンドを組みたくなる。

しかしじっさいそんなことできない。だからこのアルバムを聴く。するとなんだか脳内でバンドを組んでいる幻想の自分が発生し、バンドワゴンを運転している幻覚作用が起こる。それでとりあえず満足したいと思う。矛盾しているようだが、そんな感じです。

すげーすげー

すげーすげー