まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

必殺「まぜるな危険」

 まな板の洗浄漂白にハイターを利用することがある。そういったものの注意書きに「まぜるな危険」と記載されていることがおおい。

 

 これは塩素系なので酸性洗剤をすこしでも接触させると猛毒のガスが発生し、さいあくのばあい死ぬ、的なことが脅迫めいたニュアンスで印字されているのである。

 

 劇薬じゃん。やばいな。とおもう。「もっとも人類を殺戮している方法は銃でも原爆でもなない。毒だ」と私はアームズという漫画で読んだことがある。こんな手のとどくはんいに死に至らしめる劇薬をおいている平成の世をすこし憂慮してしまう。

 

ARMS(1) (少年サンデーコミックス)

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 しかし、私も男子だ。三十一歳だけれども、男ってなんでいつまでも男子なんでしょうね。「まぜるな危険」の赤字から「おまえを必ず殺す」という意思めいたものを感じ、脳内には「必殺」という文字がうかんでしまう。

 

 漫画やゲーム、活動写真でバトルものが横溢している昨今では「必殺」と銘打っても、ぜんぜん殺せない感がある。必殺技と題したって敵はぷしゅーと煙を立てるだけで死なない。死なないし効かないばあいだってある。つまり、その「必殺」にはリアリティがない。

 

 しかしこのハイターに記載される「まぜるな危険」はどうだ。すごく危険なかおりがする。このハイターという物品は、もしかして今世紀最大の「やばい」感が醸し出されるものなのではないだろうか。

 

 三十一歳なのにいまだに「ワル」がかっこいいな、とおもうことがある。ワイルドに憧れる。ジローラモになりたい。トキオだったら長瀬がかっこいい。そんなワルはなにをしていかにワルに箔をつけるのか。もちろん喧嘩だろう。

 

 喧嘩はもちろん徒手空拳でおこなったほうが好い。男らしい。しかし、勝てば官軍、負ければ賊軍である。勝たなければ意味がない。だからワルはそんなときのために、防御力を上げるため鋲を打った革ジャンを装備し、分厚いブーツを履き、さらに懐にはナイフを忍ばせたりする。

 

 しかしナイフは法に触れる。やはり犯罪はよくない。だから私は提案する。ワルはナイフよりもハイターを携帯すると好いのではないだろうか。

 

 敵とエンカウントしたさい、最初はもちろん裸一貫、ふんどしになり相撲をとるのが好いだろう。しかし、負けそうになったさいハイターをとりだす。そう、必殺「まぜるな危険」を繰り出すのである。

 

 もちろんハイター単品では効果をなさない。酸性の洗剤サンポールとかも必要だろう。そうして取り出した二つの液体をフリフリする。この時点でだいたいの敵は戦意を喪失する。間違いない。だって死ぬもん。

 

 しかし無知というのは罪だ。まぜるな危険の危険性を知らない人間は立ち向かってくる。こういう時は、ふっ…と嘲弄の笑みをうかべる。ここで相手が引き下がらなかったらもうアウトですね。窮鼠猫を噛む。土俵際の不敵な余裕に剣呑をかんじなければ、あいてがそこまでの人間だった、ということ。眼前のビーカーにハイターとサンポールを混ぜ合わせる。

 

 このとき注意すべきは風向きですね。いかに自分が用意したといえども、風だけはきにしなければならない。でなければ自分が死ぬ。最適解は、大きな穴のあいたダンボールの箱の中で薬品を調合し、その箱の側面を、どんっ、と叩くことによって空気砲をだす方式だろう。でんじろう先生がやるやつみたいなの。

 

 そうして必殺の「まぜるな危険」をまぜてしまった超危険なワルは、有毒ガスにより勝利を収め、ワルの箔をつけ、夜の闇に消えていく。今日もどこかで喧嘩に明け暮れ、まぜてはいけないものをまぜているのかもしれない。ハイターの危険な香りを帯びながら。

キッチン泡ハイター 台所用漂白剤 ハンディスプレー 本体 400ml

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