カルビーという製菓会社が「かっぱえびせん」という商品をかいはつした。その座右の銘が「やめられないとまらない」というものなのだけれど、そんなばかな、といつもおもう。
人類には文化をいとなむうえで「自制心」というこころのシステムが作動する。これによって傍若無人、不羈奔放なふるまいが制御され、法や文明の秩序を遵守することができる。そういうことになっている。
そんな、ひとが歴史のなかでだいじにつちかってきた「自制心」という遺伝子改造的なこころの進化を、ひとつぶの製菓ごときに台無しにされてはたまったもんじゃない。人類をなめるな、カルビー。
しかし、かっぱえびせん。ひとくち食べてみると、なるほど。とまらない。「あぁ、かっぱえびせんね」ってさいしょちょっと嘲弄した気持ちでいるのだけれど、ひとつぶのかっぱえびせんを噛み砕いたが最後、香ばしさが馥郁とし、塩味とスナックのあまさが激烈なフュージョンでひとの精神を擾乱させる。
そうなればもう、こころとは裏腹に脳からいづる電流が波動となり、かってに腕を使役してかっぱえびせんを口に運んでいく。もうかっぱえびせん無しじゃ生きていけない。なんというからだになってしまったのだ。それとどうようの経験を昨晩おぼえた。スラムダンクを一気読みしてしまったのである。
私が所蔵しているのは完全版という大判で、一巻あたりの紙幅がおおいものだ。十七巻、というと県大会がおわりインターハイに行くことになった湘北が合宿するばめん、主人公桜木花道がシュート練習に勤しむところだ。シュートの練習は楽しかった。
そこからはもう一気呵成たる勢いである。豊玉戦は二巻で終わるのでさくっと読めてしまう。この時すでに午後十一時半。めざましアプリを午前五時半から午前六時にせっていしているので、なんじかん眠れるのか、九十分サイクルの睡眠は意味がないとためしてガッテンでやっていた、と理性との烈しいバトルを繰り広げたところで、私はすでに山王戦を読んでいた。
しまった、とも思わない。スタンダール症候群におちいり、昂揚と陶酔と感動をおぼえながらスラムダンクのページをまくっていく。湘北にはいってよかった。いちおう自分への枷として「一巻一巻、二階へ取りに行く」という制約をもうけたのだけれどだめだった。私は自分に負けた。
でもきっと、徳の高い僧でもスラムダンクの山王戦を読みはじめたらとまらないとおもう。山王戦はほんととまらない。極寒の山中、はげしく滝に打たれることができても、結跏趺坐し精神を乱すことがなくなっても、ごうごうと燃え盛る火焔のまえでいかに念仏を唱えられようとも、スラムダンクの魔力には勝てない。これは人間の性なんだよ、きっと。
カルビーのかっぱえびせん、スラムダンク(山王戦)は日本三大途中でやめられないもの、と決定してもよいでしょう。じゃああとひとつは? ってなるので、うーん、とくに思いつかないや。でもやっぱ、恋、かな?
SLAM DUNK(スラムダンク) 完全版 全24巻・全巻セット (ジャンプコミックスデラックス)
- 作者: 井上雄彦
- 出版社/メーカー: 集英社
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