「驕る平家は久しからず」なんていうけど、蓋しその通りである。驕慢というのは人間の業のなかで、もっとも罪深きもののひとつではないだろうか、などと私なんかは愚考するのである。
世界には「うさぎとかめ」という古典文学があるが、これもそう。韋駄天の脚にプライドをいだくうさぎは驕った。驕ったためにかめを舐めた。舐め腐ったけっか居眠りをこき、うさぎはかめに敗れた。せめて瞬足を履いておくべきだった、とうさぎは臍をかんだという。
じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ逆に、勝ったかめは驕らなかったのか。むろん驕った。掛け金一千万倍のその賞レースに勝ったかめは、一夜にして時の人になり、賞金とテレビCM出演で億万長者となった。
かなしいかなカネはかめを変える*1。勝利の美酒に酔いしれ、美女を囲い、マンションの投資をはじめる。家具はすべてボッテガ。かめの乗るリムジンからは赤いカーペットが吐き出され、そのうえを悠然たる王者の振る舞いで肩をいらかし闊歩する。デビ夫人や叶姉妹とダウンタウンデラックスに出演し、日本アカデミー賞で藤原のりかのインタビューを受け、松本人志のすべらない話で観覧ゲストになったりする。
しかし、驕ったものの寿命は短い。その日、株式市場は大荒れに荒れ、かめの所有する有価証券は紙くず同然になった。「あの時の衝撃は今でも覚えてますね。なにがなんだかわからなかった。ドシンと後頭部を鈍器のようなもので殴られた気分でした」。かめはそう言う。
「ほんとお金なくてホームレスでした。あの頃はすごい生活してましたからね、いや逆にホームレスもすごかったんだけど(笑)。めちゃくちゃなことしてたんで実家にも帰れない。どうしようもなかったですよ」。辛酸を舐めた日々を、かめは我々のカメラの前で語ってくれた。
「いやね、だから食うものもないじゃないですか。そんで困ったなーって。したらね、やっぱ進化論ってあるんですね。リクガメだったのがウミガメになれたんですよ、がんばったら! だから浜辺で漁してました(笑)。小エビとかとって食ってね。あのときほど、ダーウィンっているんだなぁ、っておもったことなかったですね(笑)。
けど、いつまでもこんな生活続けられないなぁって。歳とったらやっぱ漁とかきついじゃないですか。きほん素潜りですし。いまは若いからなんとかなるけど。そんな逼塞した世界のなかで、ふと死にたいな、なんておもっちゃったんですね。
でも、そんときおれもうウミガメだったんすよ。入水自殺なんてできないし(笑)。ウミガメハンターに狩られて甲羅を民宿に飾る、ってのもいいかな、なんておもったり(笑)。でもいまワシントン条約きびしいし(笑)。死にてぇカメもいるっつうの(笑)。
そしたらね、うすうす気付いていたんですが、そこの浜辺、じつは漁禁止だったんです。それを住民にえらい咎められちゃって。おい泥棒! ノロマのカメ! とか、あとちょっと口では言えないすごい痛罵もいただきましたね。とくに子どもは直接なぐる蹴る(笑)。手加減いっさいなし。いやー、つらかった。そんなとき助けてくれたのが浦島さんなんです」
あれから数年たち、かめの目には希望の光がもどっていた。今は物流系の会社でアルバイトをしながら、週末はホームレスの炊き出しでボランティアをしたり、じぶんのように絶望したひとびとの再起を手助けするセラピーなどで公演をしているという。
「結果論ですが、あのとき目が覚めてよかった」最後にかめはそう語ってくれた。ここで中孝介のサンサーラが流れます。「生ぃーきてぇー」ってやつ。
「自分のように、身の丈にあわない資金が転がり込んでくると、なんだか見失っちゃうんですよね。おれなら大丈夫だ。そうおもっているひとこそ危険です。だってそれこそが驕りなんだから」。ザ・ノンフィクション(おわり)。
なにを書きたかったのか忘れてしまったのだが、驕るのはヤバいとおもう。おれもさいきん宝くじでに三千万円当選したんだけど、堅実に住宅ローンに当てていきたい。あとは車の買い替えかな。かめの話しをきけてよかった。まぁおれの作り話しなんだけど。ちなみに三千万当選ってのもフィクション。日々の家計はマイナスです。のび太くんちか。たすけて。
*1:早口言葉みたい